資源としての活用を国を挙げて進めよ――リニア新幹線残土
2025/9/5(金) 第2号 リニア新幹線残土
リニア中央新幹線の建設が進む中で、大きな課題となっているのが残土処理である。 特に品川–名古屋間では全線の8割以上がトンネル区間となり、国やJR東海の試算では1億立方メートルを超える膨大な残土が発生するとされる。 この残土を単に「廃棄物」とみなすのか、それとも「資源」と捉えて有効活用するのかで、社会的な意味合いは大きく変わる。
JR東海や国交省は「事業内利用を基本とし、余剰は公共事業や民間造成で活用」との方針を示している。 実際、車両基地や盛土区間への利用、さらには道路建設や治水工事への転用が検討されている。 また、国会審議ではリニア残土をスーパー堤防などの大規模防災インフラに活用できる可能性があるとの答弁もあり、国レベルでの利用方針は明確に「資源化」へと傾いている。
ここで注目したいのは、残土の質である。 首都圏の都市再開発で出る粘土混じりの残土に比べ、山岳トンネルを掘削して得られるリニア残土は比較的粒径が揃い、盛土や客土に適した性質を持つことが多い。 もちろん場所によっては風化した岩や軟弱な粘土層も含まれるが、適切な分析と分別を行えば、資源として活用できる余地は大きい。
活用先としてまず考えられるのは、海岸線の低地対策である。 東日本大震災の教訓は、低地がいかに津波被害を拡大させるかを示した。 震災後、各地で「かさ上げ」や「防潮堤整備」が進められたが、依然として海抜の低い地域は全国に点在する。 こうした地域にリニア残土を計画的に投入し、土地の嵩上げを図ることは、防災・減災に直結する有効策だろう。
また、農業地域の低地対策も重要である。 水はけの悪い土地では農作物の生育が妨げられ、営農意欲の低下にもつながる。 そこに透水性の高い残土を客土として用いることで、農地の改良と生産性向上が期待できる。 すでに農業分野では「客土」は伝統的な技術として実績があり、リニア残土を地域振興と結びつける可能性は十分にある。
もっとも、課題も少なくない。 残土には自然由来の重金属を含む場合があり、安易に盛土へ利用すれば環境リスクを抱え込む恐れがある。 また、地盤の安定化や液状化対策を施さなければ、将来の災害リスクを増幅させかねない。 さらに、住民の合意形成も不可欠であり、処分地をめぐる反対運動が各地で起きている現実も直視しなければならない。 岐阜県ではリニア残土に産業廃棄物が混入していた事例も確認されており、監視体制の強化は必須である。
だからこそ、残土をめぐる取り組みはJR東海任せではなく、国や自治体を挙げた総合的な体制が求められる。 残土の性質を科学的に評価し、利用先を自治体や農業団体、防災機関とマッチングさせる。 環境基準をクリアした土は積極的に防潮盛土や農地改良に回し、リスクのある土は専用の処分場で適切に扱う。 その全体像を「国の資源政策」として位置づけるべき時期に来ているのではないか。
リニア新幹線は単なる交通インフラにとどまらず、残土という副産物をどう扱うかで日本社会の未来像を映し出す。 課題は多いが、それを理由に放置すれば残土問題は「負の遺産」となる。 逆に、国を挙げて資源活用の道筋を示せば、防災・農業振興・地域再生を同時に実現する「総合開発」へと昇華できるはずだ。 残土を資源とする視点を持つことこそ、リニア新幹線の真価を社会全体で享受する第一歩である。
筆者からのメッセージ
残土を地域の力に変えることは、子どもたちに安全で豊かな故郷を残すための投資だ。 海岸を高く、農地を健やかに、未来へつなぐ土づくりを進めよう。
